「彼の地」岸本 絢 写真展

敷居を跨ぐと広がる景色は、作者に田舎の古民家を訪れた様な錯覚を抱かせた。海を渡った彼の地には、祖国の断片が残されていた。
終戦直後まで日本の統治下にあった台湾と韓国には、その当時日本人によって築かれた家屋が未だ現存している。戦後彼らは帰国を余儀なくされ、多くの家屋は取り壊される。一方残されたそれらは、現地の人々の住まいとして利用された。時を経て家屋は形を変えていく。それでもなお家々からは、祖国を離れた先人たちの生活の匂いを感じ取ることができる。
日本の外に今もなお生き続ける日本。そこに満ちる空気は、いびつに積もった時間を感じさせる。住居という空間を通して、植民地の歴史の痕跡を垣間見る。モノクロ約30点。

日本写真芸術専門学校に入学したきっかけを教えて下さい

–たしか生まれは大阪でしたよね。–

高校卒業まで大阪で生まれ育ってきました。大学は東京へ。母方の親戚も居るので、何度か上京していて憧れもありましたね。

–大学での専攻は?–

大学の専攻は外国語学部。ポルトガル語を勉強しました。幼少の頃から英語に触れていたので英語以外の言語を勉強してみようかと。ボサノバやジャズが好きだった事も影響しています。

大学3年時に10ヶ月間ブラジルのポルトアレグレに留学しました。その時選択した授業「フォトジャーナリズム」や「ジャーナリズム」「コマーシャル」など...非常に魅力的で面白かったです。“写真”も子どもの頃から好きで、父親の一眼レフカメラにフィルムを入れて撮影したことを良く覚えています。なので、セバスチャン・サルガド先生の名前や作品は、この時から知っていたんですよ。

大学を卒業して、写真の世界をより知りたくて専門学校を探しました。日本写真芸術専門学校は、オープンキャンパスとかではなく、学校見学で。担当して頂いた入学相談室のIさんと凄く楽しくお話しさせてもらい、決めました。他校にもオープンキャンパスなどに参加しましたが、決めては「セバスチャン・サルガド先生」や「海外に行けるから」。でも最初は大卒だし、コマーシャルにも興味があったので、昼間部2年制に入学しました。

在学中はどのように学生生活を送っていましたか?

写真を勉強するにつれて、やっぱり「作品を撮りたい!」という意識が強くなりました。 自分を表現する。ということに重点を置きたいと考え、2年次にはフォトフィールドワークゼミへ編入しました。

鈴木先生はすごく厳しいですが、楽しい。学んだことがすごくあります。また私の作品について真摯に考えてくださりました。
築地先生も厳しいけど、凄く優しくて。写真の表現は勉強になりました。
長坂先生は、写真に関することだけでなく、授業のことや、人間関係、恋愛相談まで色んな話をさせて頂きました。
マレーシアのスクーリング施設は、今となってはいい思い出です。

【ここで、在校生の後輩達が写真展を観覧。しばし雑談になる。】

–岸本さんのお話を聞いていると、写真を通して人が集まるというか、後輩との距離感とか凄く近くて本当に人が良いですね–

フォトフィールドワークゼミは少人数だし、同じ体験をした人たちだから、自然と波長が合うのかも。海外フィールドワーク中はブログも発信していて、人との繋がりを実感出来て。人として凄く成長出来たと思います。

海外フィールドワークについて

元々は「植民地時代の建築」という括りで撮影しました。なので、インドは東インド会社時代のイギリス建築とか、カンボジアのフランス建築とか。
海外フィールドワークの2回目のスクーリングで先生と相談していたのですが、被写体の幅が広すぎて、一つの作品にまとめるのは大変だと。なので、日本の植民地下にあった時代に台湾と韓国に建設された日本家屋に絞りたいと伝えました。やはり日本家屋と言うのは自分自身にもリンクしていますから。

–でも、なぜ建築を?–

両親の影響もありますが、建築も好きですし、歴史も好きなので。

–色々なことに興味を持たれていて、羨ましいですね–

現在はどのような活動をされていらっしゃいますか?

現在は会社員です。とは言っても、出版社のカメラマンです。フリーランスのカメラマンになる前提で働いています。外に出て取材したり、社内ではスキャンや複写、スタジオでのブツ撮り等、学ぶべきモノは多いですが、頑張っています。

どのような経緯で今回の展示を行うことになったのか教えて下さい。

ひとつ区切りを付けたかったからです。どこかのタイミングで皆さんに観て頂きたかったので。Nikon Juna21に応募したのは大阪でのアンコール展が出来るから。東京だけでなく地元大阪の同級生等にも展示を観て欲しい。
公募を通過したのは本当にラッキーですし、嬉しかったです。色々な方にコメントを頂きながら吸収したいですね。

–作品は全て海外フィールドワークの時の作品ですか?–

いえいえ、海外フィールドワークから帰国した後に再撮に行きました。海外フィールドワーク中に撮りきれなかった場所や季節感なども重要ですから。欠けているピースを埋めていくような感じの撮影でした。
台湾の家屋はほとんど人が住んでいません。逆に韓国には今も人が住んでいます。こんな差違にも気付いて頂けたら幸いです。

みなさんにメッセージをお願いします。

写真学校で写真を学んでみて、人の繋がりを実感しています。また、自分が人として深まっていきますし幅も広がったかな。
写真には、それを撮る人、その人自身が写し出されると思います。そしてその写真が、たくさんの人の目に触れる。共有された写真を通して、撮る側に様々なフィードバックが返ってきます。また、写真を通じて色々なことを見て知ることができます。自分の中の小さな世界がどんどん広がっていくのも、写真をやっていて肌で実感しています。
この“写真”というツールを是非色々な方にやって欲しいな。味わって欲しいな。と感じています。
“写真”をやると凄く楽しいですよ。


–岸本さん、ありがとうございました。大阪でのアンコール展、是非頑張って下さい。–

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